今回の研究では、米国立衛生研究所(NIH)の研究グループが165件の研究をレビューし、生活習慣、食事、医学的因子や薬剤、社会経済的地位、行動、環境、遺伝などの因子によりアルツハイマー病を予防できるのかどうかを検討した。その結果、さまざまな因子が認知機能低下の遅延や予防に寄与することがわかったが、改善可能な因子と疾患の関連について確固とした結論を導き出すことはできなかったという。この報告は、医学誌「Annals of Internal Medicine(内科学)」オンライン版に6月14日掲載された。
筆頭著者である米ノースウエスタン大学(イリノイ州)フェインバーグ医学部のMartha L. Daviglus博士らによると、地中海食、オメガ-3脂肪酸の摂取、運動、レジャー活動への参加などの生活習慣的因子と認知機能低下リスク軽減との関連はみられたものの、患者に強く勧める正当な理由とするにはエビデンスが弱すぎるという。また、遺伝子マーカーAPOEe4、メタボリックシンドローム(肥満、高コレステロール、高血圧などの危険因子を含む)、うつ病と認知機能低下リスクの高さとの関連がみられたが、やはり強いエビデンスはなく、予防のための薬剤やサプリメント(健康補助食品)の使用についても十分なエビデンスは得られなかった。一方、喫煙者ないし糖尿病患者の認知機能低下リスクの高さについては強いエビデンスが認められたという。
米マウントサイナイMount Sinai医科大学(ニューヨーク)アルツハイマー病研究センターのSam Gandy博士は、生活習慣が認知症に影響を及ぼすかどうかという疑問を解消するには、臨床試験を実施する必要があることに同意している。一方、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アルツハイマー病センターのGreg M. Cole氏は、この報告は悲観的すぎると指摘。「疾患予防のためにすべきことはその人のリスクの性質によって異なるが、臨床試験をデザインする上で必ずしもそのことが考慮されていない。この点を改善しなければ、10年後にも今回と同じような報告しか得られないだろう」と述べている。また別の専門家は、今後の研究のためには政府による支援が不可欠であると指摘している。 アルツハイマー病は認知症の60~80%を占めており、米国では510万人が罹患している。軽度認知障害の患者数はさらに多いという。